琴高仙人図(酒井抱一筆)きんこうせんにんず さかいほういつ

  • 江戸時代
  • 18-19c
  • 絹本著色

 琴高仙人とは古代中国の仙人で、琴が巧みで仙術を得意とし、河の龍を捕えるために鯉に乗って水中から現れ人々を驚かせたという。琴高仙人図は室町時代以降好んで取り上げられた画題で、雪村周継や尾形光琳の作品が有名である。酒井抱一筆のこの作品は光琳画を基にして描いたもので抱一の創意によるものではない。しかしその作風は光琳の遺去にしたがってユーモラスで軽妙を極め、鯉の鱗は墨色滴るばかりで、黄色の衣を着た仙人も気品があって俗臭がない。光琳画より装飾性の強い、色彩、形態もいっそう明快に表現された珍重すべき作品である。

酒井抱一

 1761~1829(宝暦11~文政11)。江戸時代後期の琳派の画家。姫路城主、酒井忠以の弟として江戸に生まれた。多種の才芸に富み、書、俳階狂歌にも長じ、涛花・杜陵・屠竜の別号がある。画は初め浮世絵や狩野派、円山派、土佐派など諸派の画風を広く学んだが、尾形光琳の作品に感動しその芸術の再興を志した。草花図を得意とし、深い観察力で豊かな抒情性をたたえた装飾画風を形成した。抱一は当時の文人的かつ粋人的生活を送った人で、光琳様式もその立場で解釈し、繊細、華麗な新しい画風によって光琳芸術を発展的に継承し江戸琳派を確立した画家である。宗達に始まる宗達派は光琳を経て抱一で三転したといえる。

月下尾花図 酒井抱一筆

琴高仙人とは

 琴高は中国の仙人である。周代、趙の人で、琴の名人として知られ、宋王の舎人となった。河北省のあたりを200年以上も遊歴したのち、水に入って龍子を捕え、また約束の日に鯉に乗って出て来るという仙術を使って弟子や人々を驚かせ、再び水中に戻って行ったと「列仙全伝」は伝える。