鴨装飾ブレスレットかもそうしょくぶれすれっと

  • イラン
  • アケメネス朝ペルシア
  • 前6世紀中期-前4世紀
  • 金、ラピスラズリ、瑠璃、紅玉髄
  • H-8.3 D-1.4 W-8

このブレスレットに付けられた鴨は前躯だけの姿になり、典型的なアケメネス朝のやり方で頭を後ろに向けている。この作品は中空の金管でできており、鴨の前駆はかつては色のついた貴石で丹念に象嵌されていた。一羽の鴨の嘴は瑪瑙製で、もう一羽のそれは紅玉髄である。鴨はいずれも環とは別々に作られ、当初は恐らく胸のところでつながっていたと見られる。ブレスレットを身につける為に、鴨は鋲を抜く事によって環から取り外す事が出来た。動物の頭が後ろを向いてその背に乗っているといった細部の表現は、アケメネス朝の常套様式を反映しているが、ある種の写実的な傾向や部分を着脱可能にする発想は同王朝以後のものであろうと想像される。

ペルシャのはじまり

紀元前7世紀末から6世紀初頭にかけて、メソポタミアの最大の帝国アッシリアとその最大のライバル、ウラルトゥは、あいついで北西イランのメディアと南メソポタミアのバビロニアの同盟勢力のもとに降り、更にそのイラン系メディアは西アジア世界を初めて統一する大帝国となりました。

イラン系メディアは程なく東南イランの大きい同盟勢力であったイラン系ペルシャに取って替わられ、アケメネス朝ペルシャが立ちました。

紀元前8-7世紀のこの混沌とした時代を通じて、これらメディア、ペルシャなどのイラン民族は好戦的な神々を仰ぐ伝統的な宗教から、秩序と正義そして平和をもたらす世界の救世主をあおぐゾロアスター教に急速に転向して行きました。

彼らは世界を善悪の対立としてとらえ、最終的に善の勝利としての審判が到来するとする終末論から、現実の世界の変容を求めました。

それは絶対善の創造神アフラ・マズダーのもとに統一された世界、アフラ・マズダーから多くの者の中の唯一の王となされた王を頂く巨大帝国をつくりあげることであったと言えます。

Mary Boyce/ A History of Zoroastrianism/ Leiden I- 1996-172ff. , II- 1982- 105 ff.

ペンダント付トルク 宝飾品ー腕輪、トルク、イヤリング、首飾、指輪印章他 有翼獣文様鉢 鴨装飾ブレスレット 馬形リュトン 帝王闘争文様鉢 獅子頭形杯 二頭の馬浮彫 ライオングリフィン形リュトン メディア人従者浮彫

帝都建設の銘文

――そして此は私がスサに建てた宮殿。その資材は遠方より齎された。地面を地中の岩盤まで深く掘り下げた。土を取り除くと砂利が敷き詰められ、あるところは40キュビットあるいは20キュビットに達した。宮殿はこの砂利の上に建てられたのである。地中深く掘り、砂利を敷き詰め、泥煉瓦を作る―――――これら全ての作業はバビロニア人が行った。 杉材はレバノンの山からアッシリア人がバビロンまで運び、カリア人イオニア人がスサまで運んだ。シッソ材はガンダーラとカルマニアから、ラピス・ラズリ、カーネリアンの準貴石はソグディアナから。トルコ石はホラズム、銀とエボニー材はエジプト、壁の装飾はイオニア、象牙はエチオピア(クシュ)やインドそしてアラコジア、石柱はエラムのアビラドゥから運ばれた。石職人はイオニア人、リディア人。金細工師、象嵌細工師はメディア人、エジプト人。バビロニア人は煉瓦を焼き、メディア人、エジプト人は壁を装飾した。 このスサにすばらしいものを建てんとし、すばらしいものができた。願わくばアフラマツダの神が私、父ウィスタシュパそして我が同胞をみそなわし賜わんことを。

Walter Hintz/ The Elamite Version of the Record of Darius's Palace at Susa / 1950 Journal of Near Eastern Studies Vol.IX No.1

ペンダント付トルク 宝飾品ー腕輪、トルク、イヤリング、首飾、指輪印章他 有翼獣文様鉢 鴨装飾ブレスレット 馬形リュトン 帝王闘争文様鉢 獅子頭形杯 有翼山羊装飾ブレスレット 獅子頭装飾ブレスレット 双獅子頭装飾ブレスレット 二頭の馬浮彫 ライオングリフィン形リュトン メディア人従者浮彫

装飾について

複雑な細部装飾と鮮やかな色彩を好んで使うのは、アケメネス期のある特定の様式の装身具に典型的に見られる特徴である。この時代には、重量感があり、全体が金だけで作られた装身具もあるが、凝った装飾が施された華麗な装身具の例も多く知られている。後者においては、エジプトに由来すると思われるがメソポタミアでも人気のあった色使い法と象嵌技法が取り入れられた。ここに示した作品は、これらの2つの様式の要素を少しずつ統合させたものである。動物の頭の形をした先端部装飾も、アケメネス期の装身具によくみられる特徴である。この腕輪に使われている家鴨の像は、前2千年紀以降、エジプトとレヴァノン地方で人気があった。

Catalogue Entry

The massive bracelet is more or less a smaller, simplified version of catalogue number 40. The ducks are reduced to protomes with their heads turned back in a typical Achaemenid fashion.1 The bracelet is constructed of hollow gold tubing, and the duck protomes were formerly elaborately inlayed with colored stones. One duck bill is made of agate, the other of carnelian.2 The ducks were both made separately and were in all likelihood originally joined together at their breasts. In order to put on the bracelet, the birds could be separated from the circlet by removing the rivets.

The bracelet type is preserved in much simpler versions of bronze or golden wire,3 and details like the turned heads resting on the animals' backs seem truly Achaemenid, but a certain naturalistic tendency, already noted in connection with catalogue number 40, along with the concept of a removable part may point to a later period and attribute our piece to the circle of Achaemenizing art fashioned in the Hellenistic period.4 It must be stressed, however, that at the moment, this is nothing but a hypothesis.
MP


1. See cat. no. 40, n.4.
2. For the question of authenticity of the bills see the technical note in Metropolitan Museum 1996, p. 187.
3. Musche 1992, pls. 97.2; 113.1,1; Arne 1962, p. 15, fig. 14 (possibly from Luristan). A golden bracelet of alleged "Amlash-provenance" in Teheran: Maxwell-Hyslop 1971, p. 205, pl. 161. Especially worth noting is a pair thin of bronze bracelets from Bard-i Bal (Iran) that have complete animals with turned-back heads: Iranica Antiqua 1973, pl. 21. The turned heads likewise occur on two bracelets of thick gold wire from the Oxus treasure in London, British Museum: Dalton 1969, p. 38, no. 142, pl. 19. For the problematic chronology of this treasure see Pfrommer 1990b, pp. 121-23.
4. See cat. no. 40, n.7.