山水図屏風 与謝蕪村筆さんすいずびょうぶ よさぶそん

  • 江戸時代
  • 天明2年(1782)
  • 紙本銀地墨画淡彩 六曲一双
山水図屏風 若冲と蕪村 図録解説

山水図屏風 与謝蕪村筆 若冲と蕪村 図録解説
 絵を観る者の視線は、画面を貫く一本の道とともに誘われる。右隻は湖水から始まり、東屋と二艘の漁船、間もなくごつごつとした岩の重なりや木の茂みが続き、やがて家が現れる。家々は地勢の悪い岸の岩場にあり、竹を組んだ土台の上に建っている。このような不便な所でよく暮らせるものだ。しかしそこには、僻地での生活に対する、文人(あるいは蕪村自身)の憧れが含まれているのであろう。背後には雄大な山がそびえたつ。道は左端で一旦消え、右隻は終わる。左隻も始まりは水辺、再び道が現れ、馬に乗る者や天秤棒を担ぐ人の姿が見える。樹木の陰に一旦途切れた道は、間もなく田舎の村に辿り着く。道端での談笑、家の中から外へ声をかける人など、土地の人々の暮らしぶりがうかがえる。やがて家の連なりは木立に隠され、背景の山や丘もうっすらと消えていく。
 銀地に描くことで、銀箔の上に濃墨がたまり、あるいは流れ、淡墨を透かして銀が輝く。右隻の山の上方、高く突出したいくつかの部分は青白く光り、ハイライト的効果を生んでいる。高山の隣には、暗雲にも山の影とも見える淡墨の中に、青光りする銀、流れる濃墨、そして金彩も加わり、小さなオーロラのように光が揺らめいている。また左隻の下方では、水辺の土坡や村の屋根がひときわ明るい。水には透き通るような藍色、また風景の一部や人物にも薄茶や藍や黄など、淡い着彩が施される。
 この作品が制作されたのは天明二年(一七八二)、蕪村が亡くなる前年のことであるが、その筆力は衰えるどころか、この壮大な景色を見事に描ききっており、蕪村画の大成を示しているといえるだろう。
 賛は両隻ともに、元代の『聯珠詩格(れんじゅしかく)』という漢詩を集めた本から採ったものである。文人が理想とした辺境の風景が詠われており、本屏風に描かれた山水風景も賛詩のイメージと重なる。
 署名は右隻に「天明壬寅夏写於雪斎/謝寅」、左隻に「壬寅秋八月望前二日/東成謝寅製」とあり、右隻に「謝長寅」(白文方印)、「謝春星」(白文方印)、左隻に「長庚」「春星」(朱白文連印)を捺す。