白梅錦鶏図 伊藤若冲筆  梅荘顕常賛はくばいきんけいず

  • 江戸時代十八世紀
  • 絹本着色一幅
若冲と蕪村 図録解説

白梅錦鶏図 伊藤若冲筆 梅荘顕常賛 若冲と蕪村 図録解説

 白梅の芳しい香りに誘われたのだろうか。雄の錦鶏鳥が一羽、老木の幹にとまっている。純白の冠羽、襟は黄と黒の縞、胸から腹部は朱く、長い尾羽は白と黒と暗褐色の斑点模様で、その他の羽も繧繝のごとく華麗に彩られる。目は彼方をすっと見つめ、表情は穏やかだ。花咲き誇る梅の枝は屈曲しつつ空に向かって伸び、苔むす奇岩がアクセントを添える。左上には小鳥が枝の後ろより顔をのぞかせ、岩陰からは斑入りの椿が咲きほころぶ。
 本図とよく似た画面構成が徽宗筆「芙蓉錦鶏図」(北京故宮博物院)に見出される。錦鶏鳥を主役として、梅は芙蓉に、椿は菊となって描かれ、やや振り向き加減の錦鶏の姿勢などは酷似する。若冲作品では、「花鳥版画」(作品80)の「雪竹に錦鶏図」における錦鶏鳥の表現が顔や羽の彩色、柔らかい雰囲気など、本図に通じるものがあり、「明和辛卯」(明和八年)の印があるこの版画と近い時期に制作された可能性も考えられる。また、動植綵絵の「紅葉小禽図」、「菊花流水図」、「雪中錦鶏図」(宮内庁三の丸尚蔵館)等との類似性が指摘されている。しかし本図では、動植綵絵の力強さや粘り気は和らぎ筆勢は控えめで、画全体に上品な麗しさが漂う。
 賛は梅荘(大典)顕常によるもので、錦鶏の美しさと響き合っている。銘はなく、「藤女鈞印」(白文方印)、「若冲居士」(朱文円印)を捺す。

 [読み下し]
 翩々として 何処の羽(とり)ぞ
 来たり集う 一株の芳(かおり)
 彩衣をして動かしむるを休(や)めよ
 玉容をして傷めしむるをおそるれば
 [訳]
 羽を羽ばたかせて、一体どこから来た鳥なのでしょう一株の花の香に集まって来ました
 彩も鮮やかな羽を、そんなに動かしてはいけません
 玉のように美しい姿を、傷めてしまうではありませんか (釈読・鈴木)

かざり 図録解説

白梅錦鶏図 伊藤若冲筆 梅荘顕常賛 かざり 図録解説

 極彩色の羽をもつ錦鶏が左下から突き出た梅の幹に止まっている。長い尾羽には斑点のある黒い羽があり、胴部分には緑、朱、黄色の羽が見える。画面下から突き出る岩、それを囲むように椿が咲き、錦鶏を囲むように左下から右上へと複雑に交差した梅の枝が伸びる。
 錦鶏の豪華な姿が印象的だが、画面左上の枝に一羽の鳥が顔をのぞかせている。本図の梅の枝と錦鶏の尾羽が斜めに交差する図様は、徽宗筆「芙蓉錦鶏図」(北京故宮博物院蔵)の芙蓉と錦鶏のそれと酷似しており、当時日本へもたらされた同様の中国絵画を参考に描かれたと考えられる。若冲作品では、「明和辛卯」(明和八年・一七七一)と刻まれた印章を捺す「雪竹に錦鶏図」(平木浮世絵美術館蔵)の錦鶏と本図のそれの表現が近く、制作時期もほぼ同じ頃と考えられる。画面に描かれた賛は、若冲と親しかった梅荘顕常(一七一九―一八〇一)が書いたもので、錦鶏の美しさを次のように詠む。
  翩々(へんぺん)として何処(いずこ)の羽(とり)ぞ
  来たり集(つど)う一株の芳(かおり)
  彩衣(さいい)をして動かしむるを休(や)めよ
  玉容(ぎょくよう)をして傷(いた)めしむるをおそるれば
 訳は羽をはばたかせて、一体どこから来た鳥なのか。一株の花の香に集まってきた。色彩鮮やかな羽根を、そんなに動かしてはいけない。玉のように美しい姿を傷つけてしまうではないか。