ナクト像なくとぞう

  • エジプト 中王国 第 12王朝
  • 前1960- 前1916年頃
  • アカシア
  • 高:152 cm

エジプトでは一人の人間が生まれる時、ka(霊)もその「二重身」として生まれ、死後もそれは生き続け、供養を必要とした。それは個人を生かす活力を与えるものと考えられていたようである。
この像は地下の玄室に眠るミイラの代理となる、堅牢な材質による、生前の墓主の kaが宿る肖像として造られた。左足を前に出し右手にセケムと呼ばれる統治権を委任された徴の杓、左手に身分の高い人物であることを示す杖をつかむ、伝統的な高官の姿である。その台座に刻まれた銘文「オシリスに祝福されし者ナクト」から、この像はナクトという高官であることが分かる。この像はアカシアの木でつくられており、その構造が大変興味深い。両爪先と両腕は別材で取り付けられたものであるが、本体の頭頂から胴部、両足の踵まで一材で作られ、更に、右足も木の繊維がそれに沿って流れていることから元来二股に分かれた樹木であり、その天地を逆にして使っているのがわかる。また、肘をほぼ 90°に曲げて杖を持つ左腕には継ぎ目がなく、一材で作られている。カシアを表す言葉は冥界の主神オシリスの 呼び名 と極めて近い音を持っている。名前に魂が宿ると考えたエジプト人にとって、オシリスと近い名を持つアカシアを使い、しかもその生え育った形状に応じて ka像を造ることに大きな意味合いが込められていたのではないか。

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