メダリオン動物文絨毯めだりおんどうぶつもんじゅうたん

  • 羊毛、木綿、絹
  • 縦:594.3cm 横:320.0cm

これは絵画宛らの優美な画面を創り上げるパイル絨毯であり、縦:約6m、横:約3mと非常に大きく、その保存状態も大変良いものである。
この絨毯は、オスマントルコがホチムの戦い(1621年)でオーストリア・ポーランド軍に敗退した時に、戦利品としてポーランドに渡った、通称サングスコー絨毯の中の一枚である。
絨毯の中央で六芒星状に絡み、互いの頸部を咬み合う明暗一対の龍がある。これは16世紀末~17世紀に良く使われた意匠で、龍が互いに首をS字状に曲げ、顔を背け互いの腹に咬みつくように翻案されている。この表現は中央アジアからイスラーム美術に導入された宇宙的な力を発現させる象徴であり、品格の高い意匠であったと思われる。
フィールドのコーナーとなっている四分メダリオンの枠内には、騎馬の弓矢・投げ縄・刀剣によるイランの伝統的な狩猟場面が展開し、各所に配された小型のメダリオン・カルトゥーシュ・ペンダントの枠内にはイスラームの有翼天人や楽人が表され、この絨毯の世界がパラダイスであることを示している。また、フィールドとボーダーに数多くの動物闘争文が、配されている。これはサファヴィー朝絨毯で最も広く使われた狩猟地文で、イラン古来の伝統表現の流れである。これらの闘争文は、伝統的なライオンがガゼルを襲う表現もあるが、豹あるいは虎がオカピを襲う表現もあり、そこではオカピもこの猛獣の喉元に噛みついている。また、雲気を靡かせる中国伝来の麒麟を襲っているのは、やはり雲気を靡かせたライオンの霊獣である。こうした多様な動物闘争文は、モンゴル帝国の継承政権であったティムール朝以来、イランの細密画に定着した中国由来の瑞獣をも巻き込み発達したものである。こうした闘争文は、闘争と生死の繰り広げられる世界こそ強い生命力の発露であり、この生命力こそ大いなる魔除けの力となるという、古来の西アジアの伝統的感覚が根底に流れている。

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