トマトの生気というのでしょうか、暑い日にのどの奥から涼やかなエネルギーが胸をひたひたと潤してくれる――何とも言えない満足感が拡がります。

決め手は、そのどこまでもシンプルなソースです。必要なのはまっ赤に熟したトマト、イタリアはトスカーナのオリーブオイル、そして沖縄産の天日と平釜で海水を濃縮して作った塩。

まずトマトを湯むきし、丁寧に種をとって、まな板にあふれたジュースも残さずミキサーに回収、オリーブオイルと塩を入れて混ぜ続けると、まったりしたオレンジ色のソースになります。たったこれだけで、清冽な酸味と濃厚なコクを備えた滋味あふれる味になるのは驚きです。トマトとオリーブオイルは秀明自然農法のものでなければこの味は出ないのだと、シェフは言います。農薬も肥料も使っていない秀明自然農法は、味に畑の姿を感じる個性豊かな野菜を育てるからでしょうか。

ジュースを封じこめる切り方

さて、和える材料を見てみましょう。ナスは三角柱に切り、香り高く揚げたら急冷。インゲンは強めの塩で茹でて甘みを引き出し、鮮やかな緑に変身したら急冷。ズッキーニはオリーブオイルと塩であえ、蒸気を入れながら焼いて急冷。飾り用玉ねぎは、スライスだけですっきり甘い。サイコロに切ったモッツァレッラチーズは、ほんのひとかけらでミルクの甘い香りが拡がります。秀明自然農法の野菜もチーズも、肥料や添加物からくるえぐみがありません。風味が濃いので味を封じ込め、オリーブオイルと塩で調味すればOKです。もっとも、このオリーブオイル、軽いのに風味がはっきりしていて、何にでも合うスグレモノ。

水にさらさなくても甘い

あざやかな色のナスは三角柱に

塩茹でで甘みがぐっと増す

いよいよパスタの登場です。カナダの春小麦を細かく挽いた、やや軟質のパスタですが、ゆで上げて氷水で急冷すると、デュラムセモリナ(硬質粗挽き)に負けないこしがあり、小麦の緻密でふくよかな味がそのまま感じられます。氷水から引き揚げたパスタを布巾で優しくふきあげるシェフの手は、まるでカリスマ美容師が優しく髪を扱うようです。

材料の競演

さあ、準備ができました。ソースと野菜と胡椒とパスタ、いっきにからめて盛りつけて、野菜とバジルペーストを散らし、頂上にスライス玉ねぎを盛りつけました。

一度食べたら忘れられない、夏季限定のメニューです。