エピソード

アプローチロード

本館に向かうトンネルの着工は、もう間に合わないと言われてから更に半年後でした。いよいよ着手できるとなって、ぺイ事務所から詳細な設計図が送られてきました。それを見てびっくりしたのは建設会社。この時期ならば、最短距離に決まっていると思ったそうです。ところがトンネルは高い位置にあり、長く山を通り、カーブして先が見えません。
けれども作って行って、あっと思いました。トンネルを一度歩いて頂ければ、お分かり頂けるでしょう。カーブの彼方には、光あふれる出口にすっぽりと、本館の民家風の屋根が納まっていたのです。まるで扇面画のように。

さてトンネルに連なる吊り橋の、銀色のロープをすり抜けて、橋を渡る風に吹かれたその後はその民家風屋根をくぐります。行く手には大きなガラスの壁いっぱいに景観が広がります。
この景色、ぺイ氏がこの山に立った時、5メートルづつ高さの違う足場を設けて、向こうの山の稜線が、しっくり納まる床の高さを選びました。それに合わせて、建物全体が設計されたのです。この山に立った最初から、ぺイ氏はこの窓を眺めていました。そして、その自然景の屏風には松が必要なことも・・・。

という訳で、エントランスのベランダには樹齢180年ほどの松が植えられ、トンネルはどうしても、この位置でなくてはらなかったのです。

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