エピソード

時空を越えるトンネル

MIHO MUSEUM アプローチロードのトンネルの話は、まだ続きます。
このトンネルは普通のトンネルと違って、コンクリート打ちっぱなしではありません。わざわざ、銀色の板を内側に貼り付けています。多くの建築評論家が「時空を越えるトンネル」と評しましたが、この銀色の壁は山の緑を、ある時は桜の薄桃色を映し、季節の中で微妙に表情を変えていきます。

トンネルに入ると鳥の声が遠ざかり、しんと静まります。足音がコツ、コツ、コツと付いて来ますが、カーン、カーンという反響はありません。良く観ると壁に小さな穴が空いています。この穴がトンネルの反響を和らげ、静かな空間を生み出して、現実世界を遠ざけるのです。穴の中をのぞくと吸い込まれるように、奥のコンクリート壁は真っ黒に塗られています。ところでトンネルに貼られた数百枚の銀板は、カーブの内側と外側で、微妙に幅が変っていきます。一見同じように見える銀板は、それぞれが違う大きさなのです。

更に、外の世界から一条の光を射し込ませるには、もう一つ手がかかりました。銀板一枚一枚の取り付け角度です。それが隣と少しでも違っていると、差し込んで来る光が銀板の上で乱れて、波打ってしまいます。一条の光、その為にはトンネル全体の銀板の角度を微妙に調整するという、細かい職人技が必要でした。そして美術館オープンの直前まで、ひたすらその作業が続けられたのです。

「これは単なる土木工事ではなく、まさしく建築工事だよ。」
扇面のほのかなライトが点いた銀色のトンネルには、こんな内輪話がありました。

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