エピソード

誘い込む六角形

MIHO MUSEUM の展示室や廊下は、亀の甲羅のような六角形で出来ています。ディオニュソスモザイクのそばの壁にもたれながら、エントランスの吹き抜けを見上げていると、大小長短様々な六角形が、そこにもここにも隠れているのです。一度子供達と一緒に、六角形探しゲームをしたいくらいです。

だいいち廊下や吹き抜けの形も、良く見ると六角形の組み合わせ、ファイカスの木の植木鉢は勿論、ミュージアムショップのへこみや向かい合う展示室のでっぱりが六角形、地図で見ると、エジプト室や西アジア室、企画展示室も、みんな六角形です。

それにしても、六角形の組み合わせというのは曲者です。ゆるやかに曲がりながら誘い込むのです。例えば喫茶パインビューを出ると、西アジア展示室の入り口が気を引きながら、廊下はさらに右へと誘います。廊下に面した各展示室は、壁がカーブして入り口へと誘います。水の流れる如く、人々は体の向きを変えながら、先へ先へと導かれていきます。

六角形の展示室に入ると、正面が広々と開けます。六角形の展示室を歩くと、部屋は角度を変えながら、次々に展開します。

ところでエジプト展示室の中に、直角に曲がる入り口があります。隼頭神像の部屋です。ここはライムストーンに厚く囲まれた入り口を、90度曲がって入らなくてはなりません。狭い石の通路を入る厳粛な雰囲気です。この隼頭神像は約3000年前に、おそらく神殿の一番奥の部屋に安置され、その部屋へ入って姿を拝むことを許されたのは、ごくわずかな神官だけでした。ここは、決して気軽に入ってはいけない部屋なのです。

一つの場面から次の場面への変わり目に、さまざまなニュアンスがあります。右へ左へと目を誘う空間の造り方の中に、設計者の声なき声を感じます。そして六角形というのは、様々な場面の展開に、とても便利な図形のように思えるのです。

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