金銅六器こんどうろっき

  • 平安時代
  • 12c
  • 金銅製
  • H-4 D-8
  • 所蔵
    石田茂作(瓦礫洞人)旧蔵

六器(ろっき)


 仏教法具。密教立ての修法で用いる小型の碗で、法要に迎えた主尊の供養にもちいる。同じ形の六個を一組として大壇、修法壇、護摩壇に備え、浄水をたたえてしきみの派を置く。金銅製の香炉である火舎(かしゃ)を中心に、内側から閼伽器(あかき)、塗香器(ずこうき)、花鬘器(けまんき)の3つを左右に並べる。
 なお、天台宗系の諸宗でおこなう顕教立ての法要では、六器に菊などの生花の花のみを浮かべて置くのが普通。



金銅六器について解説

 密教寺院では、本尊の前に大壇をしつらえ、壇上に密教法具と呼ばれる各種の法具を配置する。六器は火舎香炉を中心として左右に各三口ずつ配する台皿付きの碗で、閼伽・塗香・華鬘を盛るとされる。この六器は胴に子持ち三条の帯を巡らし、腰に間弁を入れた八葉の蓮弁を飾ったもので、低い高台を備え碗をのせる台皿を伴っている。薄手に鋳上げられ、轆轤挽きして整形して表面に鮮やかな鍍金を施す。碗や台皿は低平なつくりで、文様表現とともに平安時代末期の繊細華麗な趣がよく表れている。

図録解説

金銅六器
平安時代後期 12世紀
高:4.0cm 口径:8.1cm

金銅塗香器
平安時代後期 12世紀
高:7.3cm 口径:9.6cm

金銅灑水器
平安時代後期 12世紀
高:10.4cm 口径:11.8cm

密教寺院では,本尊の前に大壇をしつらえ,壇上に密教法具と呼ぶ各種の法具を配置しまた大壇の手前には,僧侶の座す礼盤とその左右に磬や脇机を備える。

大壇上に配される法具は,金剛杵・金剛鈴・輪宝・羯磨といったインドの武器に起源を有し,煩悩を打ち砕いて行者の精神を浄化する役目をになう象徴的な法具と,火舎香炉・六器・飲食器・花瓶といった仏への香・華・燈・飲食の供養を行うための法具から構成される。このうち六器は,火舎香炉を中心として左右に各三口ずつ配する台皿つきの鋺で,閼伽・塗香・華鬘を盛るとされる。

また,灑水器と塗香器は,いずれも蓋と台皿を備えた鋺で,灑水器がやや大型に作られる。柄香炉などとともに脇机の上に配され,灑水器には香水(浄水)を盛り,散杖と呼ぶ棒で散水して道場を浄め,塗香器には香末を盛って行者の五体を浄める。

これらの六器,灑水器,塗香器は,いずれも上記のような密教法具を構成したものの一部である。このうち六器は,胴に子持ち三条の帯をめぐらし,腰に間弁を入れた八葉の蓮弁を飾ったもので,低い高台を備え,鋺をのせる台皿を伴っている。灑水・塗香器は文様表現をもたないものが一般的であるが,本品は蓋の鈕座には羯磨文を表し,さらに蓋から身にかけて魚子地蓮華唐草文の毛彫りで埋め尽くした装飾の豊かな遺品である。

三口とも銅鋳製で,薄手に鋳上げられており,轆轤挽きして形を整え,表面に鮮やかな鍍金を施している。鋺や台皿はいずれも低平なつくりで,文様表現とともに平安時代末期の繊細華麗な趣がよく表れている。塗香器の台皿裏に「安養院」の刻銘があり,和歌山・高野山の安養院に伝来したことが知られる。なお,一具の火舎,花瓶,六器などが諸家に分蔵されている。(関根)

金銅灑水器 金銅塗香器

Catalogue Entry

Rokki
Late Heian period, 12th century
Gilt bronze
Height, 4.0cm; mouth diameter, 8.1cm

Zukoki
Late Heian period, 12th century
Gilt bronze
Height, 7.3cm; mouth diameter, 9.6cm

Shasuiki
Late Heian period, 12th century
Gilt bronze
Height, 10.4cm; mouth diameter, 11.8cm

金銅灑水器 金銅塗香器

解説(春の玉手箱)

 密教寺院では,本尊の前に大壇をしつらえ,壇上に密教法具と呼ぶ各種の法具を配置し,また大壇の手前には,僧侶の座す礼盤とその左右に磬や脇机を備える。大壇上に配される法具は,金剛杵・金剛鈴・輪宝・羯磨といったインドの武器に起源を有し,煩悩を打ち砕いて行者の精神を浄化する役目をになう象徴的な法具と,火舎香炉・六器・飲食器・花瓶といった仏への香・華・燈・飲食の供養を行うための法具から構成される。このうち六器は,火舎香炉を中心として左右に各三口ずつ配する台皿つきの鋺で,閼伽・塗香・華鬘を盛るとされる。形状としては,胴に子持ち三条の帯をめぐらし,腰に間弁を入れた八葉の蓮弁を飾ったもので,低い高台を備え,鋺をのせる台皿を伴っている。本作は銅鋳製で,薄手に鋳上げられており,轆轤挽きして形を整え,表面に鮮やかな鍍金を施している。かすかな反りやすっきりとした蓮弁の姿に、平安時代末期の繊細華麗な趣がよく表れている。

Catalogue Entry

In Japanese Esoteric Buddhist temples, a large altar is placed before the central enshrined image, and the various ritual implements used in Esoteric Buddhist rites are placed on this altar. A seat for the priest is placed before this altar, with shelves and furnishings flanking this priest's seat. The ritual implements placed on the altar include symbolic objects derived from Indian weapons, such as the vajra staff, vajra bell, sacred wheel and katsuma, used to purify the spirits of the Buddhist practitioners, and the ritual implements used in the offerings of incense, flowers, light, and food and drink to the Buddha, such as the incense burner, rokki bowls, food bowls, and flower vases. Among these implements, the rokki, or six small bowls with accompanying saucers, are placed three on either side of the central incense burner, and water, incense, and flower offerings are placed within these bowls. Here the rokki is banded by a 3‐stripe band around its midsection, and an 8‐petal lotus blossom motif surrounds the base which connects to the short foot. A saucer accompanies the bowl. This bowl was made of thinly cast bronze which was then wheel‐trimmed and its surface covered with bright gilding. The carefully formed lotus petal leaves with their slight outward turn are fully indicative of the detailed elegance preferred in the late Heian period.